プロジェクション・サイエンス-心と身体を世界につなぐ第三世代の認知科学-
インプレスグループで理工学分野の専門書出版事業を手掛ける株式会社近代科学社は、2020年9月17日に、編著者:鈴木宏昭氏、著者:田中彰吾氏・大住倫弘氏・信迫悟志氏・嶋田総太郎氏・森岡周氏・鳴海拓志氏・小野哲雄氏・中田龍三郎氏・川合伸幸氏・外山紀子氏・久保(川合)南海子氏・望月登志子氏・鳥居修晃氏・薬師神玲子氏による、人固有の心理現象に科学的アプローチを行った「プロジェクション・サイエンス」の研究成果をまとめた本邦初の書籍「プロジェクション・サイエンス-心と身体を世界につなぐ第三世代の認知科学-」を発売した。
▼編著者Profile
鈴木宏昭
最終学歴 東京大学大学院教育学研究科博士後期課程満期退学。博士(教育学)。
現 職 青山学院大学教育人間科学部教授。
人間の思考について研究を重ねて、ついにプロジェクションにたどり着く。これを自分の研究人生の総仕上げと考えて研究を重ねている。日本認知科学会フェロー。
主著に『教養としての認知科学』(東京大学出版会、2016)、『類似と思考改訂版』(ちくま学芸文庫、2020)。
▼著者Profile
田中彰吾
最終学歴 東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程修了。博士(学術)。
現 職 東海大学現代教養センター教授。
メルロ=ポンティの現象学に示唆を受け、身体性認知科学を刷新する研究に取り組んでいる。著書『生きられた〈私〉をもとめて|身体・意識・他者』(北大路書房、2017 年)で湯浅泰雄賞を受賞。
大住倫弘
最終学歴 畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程修了。博士(健康科学)。
現 職 畿央大学大学院健康科学研究科准教授。
痛みのリハビリテーションの開発と効果検証を実践している。特に、四肢切断後に存在しないはずの肢に生じる痛み(=幻肢痛)のリハビリテーションを専門にしており、認知科学とリハビリテーション医学の両面からのアプローチを試みている。
信迫悟志
最終学歴 畿央大学大学院健康科学研究科博士後期課程修了。博士(健康科学)。
現 職 畿央大学大学院健康科学研究科准教授。
理学療法士としての臨床経験を基に、主に高次脳機能障害(失行)と発達障害(発達性協調運動障害)の病態理解とリハビリテーションに関する研究と実践に従事している。
嶋田総太郎
最終学歴 慶應義塾大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。
現 職 明治大学理工学部教授。
身体性・社会性の認知脳科学の研究に従事。安藤博記念学術奨励賞(2007 年度)、日本心理学会論文賞(2018年度)。著書に『脳のなかの自己と他者|身体性・社会性の認知脳科学と哲学』(共立出版、2019 年)、『認知脳科学』(コロナ社、2017 年)など。
森岡周
最終学歴 高知医科大学大学院医学系研究科博士後期課程修了。博士(医学)。
現 職 畿央大学大学院健康科学研究科主任・教授、東京都立大学人間健康科学研究科客員教授。
脳卒中後の運動障害、高次脳機能障害、身体性変容に対するニューロリハビリテーション研究に取り組んでいる。『リハビリテーションのための脳・神経科学入門』(協同医書出版社、2016)他著書ならびに受賞多数。
鳴海拓志
最終学歴 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。
現 職 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻准教授。
身体と認知との相互作用を利用し、身体拡張体験を通じて人の認知機能を自在にデザイン可能にするゴーストエンジニアリングを提唱するなど、認知科学の知見とバーチャルリアリティ技術を融合させることで、人間の知覚・認知・行動を拡張する研究に取り組む。主要著書(共著)に『トコトンやさしいVR の本』(日刊工業新聞社、2019 年)。
小野哲雄
最終学歴 北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。博士(情報科学)。
現職 北海道大学大学院情報科学研究院教授。
認知情報科学の立場から、ヒューマンエージェントインタラクション、コミュニケーションロボット、インタラクティブシステムに関する研究に従事。研究を進めるうえでのキーワードは、傍流、トリックスター、創造性など。著書に『マインドインタラクション』(共著、近代科学社、2019)、『人とロボットの〈間〉をデザインする』(共著、東京電機大学出版局、2007)などがある。
中田龍三郎
最終学歴 立教大学大学院現代心理学研究科満期退学。博士(心理学)。
現 職 北星学園大学社会福祉学部専任講師。
専攻は実験心理学、発達心理学、認知科学、比較認知科学、食生活学。 社会的な存在(他者)の情報が認知機能(おいしさの認知や実行機能など)に及ぼす影響について、食場面やゲーム場面などの日常的な状況を想定して研究している。
川合伸幸
最終学歴 関西学院大学大学院文学研究科満期退学。博士(心理学)。
現 職 名古屋大学情報学研究科教授。中部大学創発学術院客員教授を兼務。
専攻は比較認知科学、認知科学、実験心理学。文部科学大臣表彰若手科学者賞(平成17 年度)、日本学術振興会賞(平成21 年度)、日本学士院学術奨励賞(平成21 年度)、Frank A Beach Comparative Psychology Award(2010)ほか多数受賞。主な著書は『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』(講談社現代新書)、『The fear of snakes: Evolutionary and psychobiological perspectives on our innate fear』(Springer)等。
外山紀子
最終学歴 東京工業大学総合理工学研究科博士課程修了。博士(学術)。
現 職 早稲田大学人間科学学術院教授。
専攻は発達心理学。病気や食、成長などの生物現象に関する理解の発達、食事場面における乳幼児と養育者(保育者)の行動分析を行っている。著書に『生命を理解する心の発達』(単著、ちとせプレス、2020)、『乳幼児は世界をどう理解しているか』(共著、新曜社、2013)など。
久保(川合)南海子
最終学歴 日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程後期修了。博士(心理学)。
現 職 愛知淑徳大学心理学部教授。
老齢ザルとヒト高齢者を対象に加齢にともなう認知機能の変化と行動的特徴について実験研究を行ってきた。ワークライフバランスやジェンダー等についても関心がある。最近では特に、ポップカルチャーを切り口としてプロジェクション・サイエンスの研究に興味を持って取り組んでいる。
望月登志子
最終学歴 日本女子大学家政学研究科児童学専攻修士課程修了。文学博士。
現 職 日本女子大学名誉教授。
主要共著『視覚障害とその代行技術』(名古屋大学出版会、1984)、『視知覚の形成1』(培風館、1992)、『視知覚の形成II』(培風館、1997) 、『先天盲開眼者の視覚世界』(東京大学出版会、2000)、『老年認知心理学への招待』(風間書房、2006)。
鳥居修晃
最終学歴 東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士。
現 職 東京大学名誉教授。
主要単著『視覚の世界』(光生館、1979)、『視覚の心理学』(サイエンス社、1982)。主要共著 『視知覚の形成1』(培風館、1992)、『視知覚の形成II』(培風館、1997)、『先天盲開眼者の視覚世界』(東京大学出版会、2000)。
薬師神玲子
最終学歴 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。博士(学術)。
現 職 青山学院大学教授。
心理物理学実験と認知科学の手法を用いて、人間の視覚情報処理とその学習に関する研究を行っている。著書に『大学1・2 年生のためのすぐわかる心理学』(共著、東京図書、2012)、『3 次元視空間におけるオブジェクト認知とノイズ処理』(風間書房、1999)等。
「プロジェクション・サイエンス-心と身体を世界につなぐ第三世代の認知科学-」内容紹介
認知科学は第一世代:記号操作(1970-1990)、第二世代:身体性(1990-2010)の変遷を辿りましたが、ここでは世界から刺激を受けた人が内部モデル(表象)を構築する段階を説明するに留まっていた。
プロジェクションは、その盲点をカバーする心の働きとして、認知科学の分野で注目され始めている。
プロジェクションとは、人が構築した表象を世界に投げかけることを指し、この作用によってその人独自の意味に彩られたprojected realityが生まれる。これは信仰、愛着、共感、フェティシズム、LGBT問題など、人固有の心理現象とも密接に繋がる。
「プロジェクション・サイエンス-心と身体を世界につなぐ第三世代の認知科学-」は、この人固有の心理現象に科学的アプローチを行った「プロジェクション・サイエンス」の研究成果をまとめた本邦初の書籍。
様々な場面における心と世界の関わりを詳細に解説しているため、心理学だけでなくAIやVRなどの情報科学、社会学や経営学分野の方々にとっても新たな知見が得られる一冊となっている。
※「プロジェクション・サイエンス-心と身体を世界につなぐ第三世代の認知科学-」は学術誌『認知科学』(Vol. 26 No. 1 2019年3月)特集『特集-プロジェクション科学』の内容に大幅加筆し、書き下ろし原稿を加えて再編集されたもの。
「プロジェクション・サイエンス-心と身体を世界につなぐ第三世代の認知科学-」目次
1章 プロジェクション・サイエンスの目指すもの
1.1 はじめに
1.2 プロジェクション・サイエンスの必要性
1.3 プロジェクションの基本フレームワーク
1.4 プロジェクションの身体的基盤
1.5 プロジェクションのメカニズム
1.6 まとめと可能な反論
1.7 プロジェクション・サイエンスへ向けて
2章 ポスト身体性認知としてのプロジェクション概念
2.1 身体性認知とは何だったのか
2.2 身体性認知を支える仮説
2.3 身体性認知の心の見方と既存アプローチの限界
2.4 プロジェクション概念を導入する
2.5 プロジェクションの含意
3章 プロジェクション・サイエンスから痛みのリハビリテーションへ
3.1 はじめに
3.2 多感覚によって修飾される痛みの経験
3.3 プロジェクション・サイエンスの視点から痛みのリハビリテーションを再考する
3.4 プロジェクション・サイエンスを応用した痛みのリハビリテーションに向けて
4章 バーチャルリアリティによる身体の異投射が知覚・認知・行動に与える影響とその活用
4.1 プロジェクションによって生じる心の機能
4.2 異投射のツールとしてのバーチャルリアリティ技術・人間拡張技術
4.3 異投射を活用したゴーストの理解から工学的アプローチによるゴーストの拡張へ
4.4 身体の異投射と身体所有感
4.5 身体の異投射の程度と知覚の変容
4.6 身体の異投射と認知・行動の変容
4.7 身体運動の変容が認知と行動に与える影響
4.8 ゴーストエンジニアリング:身体の異投射がもたらすゴースト変容の工学的活用
4.9 おわりに
5章 プロジェクション・サイエンスがHAI研究に理論的基盤を与える可能性
5.1 はじめに
5.2 プロジェクション・サイエンスにおける「投射」の分類
5.3 HAIにおける「異投射」:ITACOシステム
5.4 HAIにおける「虚投射」:身体投射システムと「サードマン現象」
5.5 「部屋」への投射:ITACO on the Roomと「事故物件」
5.6 プロジェクション・サイエンスはHAI研究に理論的な基盤を与えうるか?
6章 社会的な存在-他者-を投射する
6.1 はじめに
6.2 虚投射:誰もいないのに他者が投射される
6.3 異投射:異なる存在に特定の他者を投射する
6.4 人工物に他者を投射する
6.5 他者の異投射により心的感覚が変化する
6.6 “誰か”を投射する
6.7 “だれか”を投射することで食の社会的促進が生じる
6.8 まとめ
7章 魔術的な心からみえる虚投射・異投射の世界
7.1 内在的正義
7.2 死後の世界
7.3 セレブリティ伝染と汚染
7.4 プロジェクション・サイエンスの発展に向けて
8章 共有される異投射と虚投射:腐女子の二次創作、科学理論、モノマネを通じて
8.1 物語の派生とプロジェクション
8.2 腐女子の二次創作から考える二つのこと
8.3 物語の派生に関わる異投射と虚投射のメカニズム
8.4 投射を共有するコミュニティ
8.5 異投射や虚投射が共有されるダイナミズム
8.6 投射の共有で認識世界は豊かになる
8.7 コミュニティなしに共有される投射
8.8 おわりに
8.9 付録腐女子の妄想内容の例『恋愛関係にあるアンパンマンとばいきんまん』
特別寄稿 開眼手術後における視・運動と定位活動
S.1 まえがき:視覚におけるプロジェクションの問題と開眼手術後の視覚
S.2 Part1:問題の発端と展開
S.3 色彩の知覚
S.4 図領域の知覚:有無と方向の弁別
S.5 2次元図形の形態弁別
S.6 概要と考察
S.7 Part2:開眼手術後における視対象の知覚と定位
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