mojiru【もじをもじる】

「mojiru」はこのブログ名。「もじる」は著名な言い回しに似せて表現すること。ブログでは、本・映画・グルメなどのヒット商品や気になったトレンドを文字をもじったりもじらなかったしながら、フォントを使ったり使わなかったりしながら取り上げていく。更新頻度は1日1回が基本です。[もじる使用例]1.吾輩は下戸である。お酒は飲めない。2.太閤がまずしかったから。3.棋士の一二三に惨敗。

ゴシック体頂上決戦!写研ゴナ・モリサワ新ゴ訴訟

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仁義なきゴシック体頂上決戦!写研「ゴナ」VSモリサワ「新ゴ」訴訟 

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日本の印刷・出版業界で圧倒的なフォントのシェア率を誇り、業界No1のフォントベンダー「株式会社モリサワ」。

2020年に開催予定だった東京五輪(東京オリムピック)でも「フォントデザイン」と「開発サービス」を担当しており、名実ともに日本のフォント業界を牽引する存在になった。

そのモリサワにとって明朝体の代表書体が「リュウミン」だとすると、ゴシック体の代表書体は「新ゴ」で間違いないだろう。然しながら、この世界はかつてモリサワが「株式会社写研」と争った「新ゴ」との「ゴナ」を巡る裁判に勝った後の世界線を辿る世界である。その事実は写研の書体の美しさを愛したロマンチストたちにとってはフォントデストピアとして忌み嫌う世界であるのもまた一つの真理である。

新ゴ

「新ゴ」とは小塚明朝・小塚ゴシックの制作者で知られる書体設計家・小塚昌彦氏を制作統括者に迎えて1986年より開発が開始されたモリサワの角ゴシック体の事である。

ゴナ

「ゴナ」は、写研の「ナール」の作者でもある書体デザイナー中村征宏氏が1975年にデザインした写研の角ゴシック体である。都市高速道路の標識の他、JR東海の駅構内サインなどに使用されてきた多くのデザイナーに愛されてきた書体で、書体名の由来はゴシックのゴと中村のナでゴナとされている。

モリサワ「新ゴ」と写研「ゴナ」の裁判

1993年3月に写研はモリサワが提供している「新ゴシック体U」「新ゴシック体L」が、自社の「ゴナU」「ゴナM」の複製であるとして裁判を起こした。

モリサワは「新ゴ」を同社のフォント「ツデイ」後継フォントと弁明をしているが、両社のフォントを並べてみると平仮名にこそ違いが感じられるが、2つのフォントがそっくりである事は誰の目にも明らかであり、「ゴナ」が先行してリリースされている事も含めて、よく言えば「新ゴ」は「ゴナ」のオマージュであり、写研の立場になれば「新ゴ」は自社の利益を損なうパクリフォントである。ジオン軍総帥ギレン・ザビ風に言えば「新ゴ」は「あえて言おう!ゴミであると!」となってしまう。

こうして自社のフォントを模倣された事に憤った写研は裁判を起こして「ゴナ」の権利を主張した。裁判は最高裁判所までもつれるが、最終的に「ゴシック体の範疇を抜けない範囲で制作されたものであるため、ゴナと新ゴシック体が結果的に似てしまうことは避けられない」として、写研の請求は退けられてしまった。逆にモリサワ側はさすが面の顔が厚く、逆に「ゴナ」こそが「ツデイ」の複製である、と反訴している。こちらも同様の理由で棄却されているが、私としてはモリサワの思惑がこの裁判に勝つつもりだったのではなく、裁判を上書きする事で「ゴナ」の地位を乏しめ、「新ゴ」こそがスタンダードであることを世間に印象付ける為に行われた裁判だったのでは?と邪推している。

ともあれこの結果でケチが付いたのか写研はその後、所得隠し及び粉飾決算という負の連鎖まで引き起こしてしまう事になる。つまり写研は「ゴナ」の権利を主張したが為に皮肉なことに会社として「コナゴナ」になってしまったのだ。

この裁判結果は、まだ人が時事ネタやニュースなどの情報を気軽に迅速に知る術を持っていなかった時代に下った判決である。一人一台のスマートフォンの所持が当たり前になり、誰しも気軽に素早く情報を入手できる2018年現在の日本でこの裁判が起きていたならば、結果は違っていたのかもしれない。

2019年、世はまさに大SNS時代。

国民一人ひとりがblog、Twitter、Facebook、Instagramなどで情報を垂れ流し、印象に残る情報であればその情報は正しいかどうかはさておき、拡散されていく。

著作権や意匠権といった業界にもその流れは当然あり、例えば五輪のロゴが何かのデザインと似ていれば「パクリだ!」とSNSで発信され、漫画やイラストで構図が同じであれば、「トレースだ!」と糾弾される。的になったデザイナーやクリエイターは経歴から家族構成まで晒され、気が付けば人間性まで否定される始末。
こうした時代に「ゴナ」と「新ゴ」の裁判がこの時代に行われていれば、正義感面した人間により「モリサワの新ゴ、写研のゴナの丸パクリ説」として話題に挙がっていても不思議ではない。

ともかく世が世なら両社のフォントは徹底的に検証され、SNSで発信されていただろう。そしてその情報は拡散され、「モリサワ許すまじ!」「モリサワは日本の会社じゃない!」「パクリのモリサワフォント高杉ワロタW」などとモリサワと「新ゴ」への非難が集中し、やがてモリサワ不買運動に発展、モリサワパスポートは箱ごと破り捨てられ、フォント擬人化漫画「フォント男子!」はアニメ化の夢を見ることなく即打ち切りし、森は焼かれ、澤は干上がり、モリサワ社長が侘びの為に焼き土下座する映像がネットで配信されるといった恐ろしい未来の可能性も想像に難くない。しかしこのフォントデストピアも別の世界線の「たられば」の話に過ぎない。

現実は写研の請求は退けられ、モリサワは印刷・出版界で欠かせないフォントとして君臨し、フォントベンダーのタイプバンクを子会社(2017年9月に吸収合併)、また、リョービイマジクスよりフォント事業譲渡を受けるなど、同業他社のM&Aにも積極的に行い、モリサワ帝国を築きあげる事になる。そして「新ゴ」もモリサワと共に増長していく。「ゴナ」の読みやすさを持つ「新ゴ」は、更に誰にでも読みやすいたユニバーサルデザイン書体「UD新ゴ」としてクラスアップし、JR東日本の券売機やバスタ新宿にある電光掲示板の行き先表示、はたまた任天堂の大人気ゲーム機「Nintendo Switch」にも採用されていく。

更には2018年現在、Clarimo UDシリーズとして多言語フォント化の道を辿る等、同社のグローバルフォントを担うモリサワのフラッグシップフォントと呼ぶべき重要な位置づけにまでのさばった。

一方、写研と「ゴナ」は元々、採用されていた首都高速道路の標識などがモリサワのフォントへと置き換えが進んでいる状況である。また、2011年7に開催された第15回国際電子出版EXPOにおいて、OpenType化した写研フォントをリリースすることが一旦、発表されたが、7年以上経過した2018年になった現在もリリースされる見込みは立っていないという状況に陥っている。

両社の明暗を諸に分けた裁判の焦点となった「意匠権」とは、意匠法で規定された産業財産権で新規性と創作性があり、美感を起こさせる外観を有する物品の形状・模様・色彩のデザインの創作についてなされる権利。工業的なデザインの権利保護を目的としており、なんだがデジタルフォントにも適用されそうな権利ではあるが、「ゴナ」「新ゴ」の裁判にてフォント(タイプフェイス)が著作権でも保護されず、意匠権の保護対象になっていない状況が言い渡されてしまい、デジタルフォントが意匠権の夢を見る事はできないフォントデストピアが誕生して現在に至っている。

デジタルフォントは意匠権の夢が見れるのか?

ではこの状況を覆し、デジタルフォントが意匠権の権利を持つ為に何が必要なのか?

その答えの1つとして、組版フォントの中で究極の状態とも言われる「水のような、空気のような」書体ではなく、SNS全盛のこの時代に新書体としてリリースしてもパクリを指摘されない作り手の顔が見える「水のようでも、空気のようでもない」個性が際立つフォントではないだろうかと私は考える。

そして、現状、デジタルフォントが意匠権を持てるようにできる可能性がある人物として藤田重信氏を挙げたい。藤田重信氏は元写研で、現在はフォントワークスのフォントデザイナーである。藤田重信氏が手掛ける書体「筑紫書体」シリーズは、フォントワークスのフラグシップフォントとして明朝体、ゴシック体、丸ゴシック体から見出し用、新聞用など、豊富なラインナップで提供している書体で、金属活字の滲みを再現しながら細部に施した斬新なデザインの書体である。フォントワークスは筑紫書体に関して、グッドデザイン賞2017の書体概要に下記のように記載している。

他社にはない、時代の流行の一歩先をいくデザイン性は、「空気のような存在感のない明朝体」が多い中で、「緊張感」や「華やかさ」といった真逆の性質を持ちあわせ、どんな媒体でも一定の緊張感を演出する稀有な書体。

このように空気のような書体に対して真っ向から対抗しているのが何とも特徴的であり、挑戦的であるが、「筑紫書体」シリーズは2017年グッドデザイン賞【グッドデザイン・ベスト100】を受賞している。

2017年グッドデザイン賞【グッドデザイン・ベスト100】や近年、フォントワークスは母体がソフトバンクグループになった事も影響し、その豊富な資金とコネクションにより、藤田重信氏自身にスポットを当てたテレビ取材も多い事も意匠権を与える上で説得力になる。

また、藤田重信氏自身もSNSを使用して書体や自身について広く発信しており、「筑紫書体」シリーズは、まさに作り手の顔が見えるフォントであり、デジタルフォントの意匠権を主張する上でうってつけの会社と人材と思えるのだ。つまり今後、デジタルフォントに意匠権を与える活動をするなら、藤田重信氏とフォントワークスは欠かせない存在になるだろう。とかなんだかフォントワークスに白羽の矢を立てた原稿になってしまったが、私の所属する会社はフォントワークスではなく、別のとある会社だ。だからフォントワークスがデジタルフォントの意匠権についてどう考えているのかは分からないし、この意見も勝手な妄想であると付け加えておく。

今回、モリサワと写研による裁判について書く過程で、写研の残念な現状について書いてしまったが、ビジネスとしては大阪の会社であるモリサワの商売の上手さに負けて衰退してしまっているが、その高品位な書体で写真植字全盛期において圧倒的シェアを誇り、グラフィックデザインや出版分野における組版・書体のデファクトスタンダードとして、広告・出版物からサイン、映像分野にいたるまで幅広く使用されたのは事実であり、今なお、多くのデザイナーに愛されている。そして、現在のデジタルフォント業界では写研で書体づくりを学んだ人間達が第一線でリードしている。日本における欧文書体設計の第一人者としてモノタイプのタイプ・ディレクターとして活躍する小林章氏やヒラギノシリーズやこぶりなゴシック、游明朝体、游ゴシック体などを開発した有限会社字游工房代表取締役・鳥海修氏、そして先ほど挙げた藤田重信氏は写研の出身である。

写研の書体を愛したロマンチストたちは、この3名がフォント業界の中でモリサワではない組織で輝きを放っている事で少しは留飲を下げられているのだろうか? 

そのロマンチストたちは、現在、別々に活躍するこの3名がいつか会社という垣根を越えて写研の「ゴナ」「ナール」「石井書体」などの権利を正式に取得して現在のデジタルフォントとして復刻してモリサワ帝国に一泡吹かせる日が来るという手前勝手な夢を見ているのかもしれない。

2021年に写研とモリサワが雪解け!モリサワと写研がOpenTypeフォント共同開発発表

2021年のいち早い雪解けを告げるべく、モリサワは写研の保有する書体を両社共同でOpenTypeフォントとして開発することに合意したことを2021年1月18日に発表した。

写研フォントは2024年より順次リリースする予定との事。

モリサワパスポートに写研の「ゴナ」ファミリーが収録される、そんな時代が2024年にやってくるのかもしれない、できるかできないかはモリサワと写研次第。

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