ある日、透きとおる
岩崎書店は、児童文学作家・三枝理恵氏の最新作である空気を読みすぎる女子中学生の自分探しの物語「ある日、透きとおる」を2019年10月19日に発売した。
三枝理恵Profile●東京都出身。日本児童教育専門学校卒業。作品に『ねらわれたにちようび』(岩崎書店)、ほかに『わらうおばけざくろ』(岩崎書店)、『世界一しあわせな鼻くそ』(くもん出版)に作品収録。ハッピークロウ同人。
絵:しんやゆう子(しんや・ゆうこ)
和歌山県生まれ。多摩美術大学卒業。書籍や雑誌の装画・挿絵を中心に活動中。装画を担当した主な書籍に、『ふたり』(講談社)、『あした飛ぶ』(学研プラス)、『犬がすきなぼくとおじさんとシロ』(岩崎書店)など。
「ある日、透きとおる」ストーリー
ある日、自分が透きとおっていた。なぜ?
木の葉が風に乗ってきて、自分をとおりぬけていった。
それで気がついた。自分には姿がないんだと。
今までどこでどうしていたのか、なんの記憶もなかった。
なぜここにいるのかもわからない。
たった今、ポッとこの世に出現したみたいだった。
町にはたくさん人がいるのに、だれも自分には気づかなかった。
どうして自分だけ、姿がないんだろう。
私ってなんだろう? 女子中学生の自分探しの物語「ある日、透きとおる」
ある日、自分が透明になっていた。なぜそうなったのかはわからない。でも、自分の存在を「感じて」くれる人に偶然出会い、その人と一緒に自分探しをすることになった。その人は、生物部のボランティアで30歳くらいの男性。自分の気配は感じるけれど姿は見えないという。彼からの質問に、一つひとつ答えながら、自分のことを少しずつ探ってゆく。「出現」したときのこと。それまでの記憶はまったくないこと。町を漂っていたこと。音楽がすきなこと。ことばも、人の常識も、楽器の名前までわかるのに、なぜわかるのかが、わからないこと。記憶にはないものの、なんとなく気にかかる場所に出向いて、そこでの人間関係を観察する。吹奏楽部、楽器室、商店街…。「知ってる」感じがしたところはー。トランペットの、夕那っていう子と、何か、関係ありそうだと思う。過去の自分が見える。人から何々してといわれることが多かったこと。行列ができると自分の順番をゆずってしまうこと。プレゼントは自分から「これがいい」といわなかったこと。行動の遅い友だちのペースに合わせたこと。男子のつまらないギャグにも反応したこと。そして中学受験のとき…。自分は誰だったのか? どうして透明になってしまったのか? 物語の終盤で見えてきた事実と、主人公の選んだ生き方とはー?
空気を読みすぎて、自分を消していない?
静かに問いかける作品「ある日、透きとおる」
友だちや先生、親の期待にこたえたい。身近な人の気持ちを思うあまり、過度に「空気を読む」くせのついた人、少なからずいるのではないだろうか? キャラの立った人、明るい人が、とかくもてはやされる現代。主人公のような、空気を読みすぎる子は、自分の存在をどんどん消していってしまうのかもしれない。そんな「自分を消してしまう子」の、言葉にならない胸の内をリアルに描き出すとともに、近くに手を差し伸べてくれる人がいることを教えてくれる、児童文学の秀作。自分に「もどった」主人公が、明るくもない積極的でもない自分でいていいんだと気づいたように、「ある日、透きとおる」を読んだ人もまた、自分のありたい方向性を考えることだろう。
吹奏楽部を舞台に、空気を読みすぎる少女が、自己肯定感に気づいてゆく物語。同調圧力に生き辛さを感じている多感な世代に、ぜひ読んで欲しい1冊になっている。
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